桜の木の枝に、ふっくらと育った蕾が今にも花開きそうにしている。 濃いピンク色の花弁が顔を覗かせている。咲く為の準備を整え、じっと身構えている。 その様子を見ていた草加は「早く桜が咲いてくれないかな」と言った。 「今年は寒いですからもう少し先かもしれませんね」と津田は返した。 膨らんだ蕾も冷えてしまえばあっという間に萎んでしまう。 この気温では上着も当分脱ぐことが出来ないだろう。冬の余韻はまだまだは続きそうだ。 草加は残念そうに「そうか」と呟く。表情に暗い影が落ちて、大きく深い溜息が零れた。 津田は草加のその落胆とした表情を見て胸中がざわめく。 桜が咲く頃は草加にとって大事な何かがあるのだろうか。 事に触れてはいけない気がして、津田は草加を詮索するような言葉は一切口にはしなかった。


草加はぼんやりと遠くを見つめている。津田は草加の視線の先を見た。茶屋が見える。
草加は茶屋を見つめたまま深い溜息をついた。項垂れている。これはどうしたものかと津田は弱った。 腕時計に目を遣ると、針は三時を指している。小腹も空いた所だ。丁度いい。
「あそこの茶屋に何か食べに行きましょうか!」
すっかり元気を失った草加を元気にしようと、津田は明るく振る舞った。
津田は草加の手を強く引いた。すると草加は「…彼処の桜団子が食いたい」と呟いた。


その茶屋では、桜が咲き始めると共に売り出す団子があるという。 草加は甘味にはうるさい方だから余程美味い団子なのだろう。 津田はどのような団子なのかと草加に尋ねた。 草加は突然元気を取り戻し、団子について熱く語り始めた。 まず、桜色に染められた団子生地が美しい。吸い付くようなもちもちした食感がたまらなく美味い。 桜の葉が細かく刻まれた物が生地に練り込まれていて、軽く塩味が効いている。 この塩味加減が程良く、中に入っているあんこと絡んで旨みを一層引き立てる。 このあんこがまた美味い。甘みが少なく、さっぱりとしていてしつこくない。いくつでも食べられる。 ただ、黒蜜を敢えてつけずに食べるのが良い。黒蜜と言えばみたらし団子もまた秀逸な出来映えだ。 草加は呆れかえるほどに団子について延々と語る。 津田は草加の話を聞きながら、確かに美味そうだなと涎が垂れてしまいそうになる口元を拭う。
「そうだ、桜が咲いたら一緒に団子を食いに行かないか?」
美味いぞ、と草加は満面の笑みを浮かべた。
「是非」
草加の笑顔に吊られて津田もにこりと笑った。



津田は桜が花開くより、草加と食べる団子の事が楽しみで仕方がない。


aoto.
07/03/10(直:07/06/30)
for niichi-san!







草加は病的に甘味が好き。
2人はお店に寄って豆大福を食べて帰りました。