
奴の困り果てて動揺する表情が好きだ。
私の一言一言に大きく反応を示し、悩み込む姿がとても可愛いと思う。
笑ったり、怒ったり、悩んだりと変化に富んだ表情は私を一時たりとも飽きさせる事はない。
次々と変わる表情を見つめていると私の心は聡明に濾過され、透明な水となって清らかで和やかな気持ちになる。
穏やかな至福に包まれ優しい気持ちになれる。私は奴をとても愛おしく思う。
愛おしく思うあまり、私を見つめる瞳の奥に私の姿が映り込む瞬間だけは私だけを思い、私だけを見ていて欲しいと願う。
直進する光は屈折し、奥底に到達すると外界の世界を感知する。そうして脳が認識する残像は動きだす。
あぁ、網膜に投影された私の残像を永久に焼き付けてしまいたい!
私だけを知り、私だけを見つめ、私だけを感じていて欲しいのだ!
他のものは何も見なくてよい!
…瞳を塞いでしまえば、奴は私を見つけだすことが出来るだろうか。
肌に触れるだけでは私だと判断がつかないだろうか。私は変に不安になった。
先程までの穏やかな感情は風のように消え去ってしまい暗鬱な気持ちになる。
暗闇の中では私の存在を鮮明に感じ取る事はできはしないだろう。奴が私の姿を見失うなどとあってはならない。
私は津田を強く抱きしめて輪郭を、香りを、温もりを体で感じた。
こうして肌の感触を繋ぎ止めると、彼の存在は私の体の一部となった思いがした。
急に強い力で抱きしめられた津田は一層眉を顰めて困惑の表情を浮かべたが、
草加の瞳が悲しく揺れたのに驚いて、同じように痛いぐらいの力で草加の体を抱きしめた。
aoto.
06/04/29

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