
目の前に座る彼は先程から様子がどうも落ち着かない。
視線が右から左へ、左から上へ、あちらこちらに泳いでいる。
私は彼のその視線の先にあるものが気になって仕方が無かった。私も彼と同様に彼の視線を追いかけた。
上から下へ、下から右へ…まるで空中に弧を描くようにくるくると動き回る。
暫く私は彼と同じ行動を続けていたが、その視線の先に何があるのかをとうとう見つける事が出来なかった。
彼の瞳は一体何を追いかけているのだろう。
直接問うてみようと思ったその瞬間、突然私の眼前で彼の両手がぱちんと弾けた。
私はびっくりしてすっとんきょうな声をあげた。
「蚊だ」
彼はそう言うと手の平で無惨にも潰れた一匹の蚊を私に見せ、満足そうな笑みを浮かべた。
aoto.
05/08/20

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