
草加は声を立てて笑うことはあまりない。
静かに佇む優しい微笑み。彼が笑う時はいつも穏やかであると津田は思っていた。
印象的な後ろ姿、凛とした横顔、呼びかける声に振り返る優しさに満ちた笑顔の眩しさ。
こうして思い起こしてみても、大きく笑っている姿にはどうにも辿りつけない。
笑う事だけではなく草加はあまり表情を崩さない。彼はどのような事に対して笑うのだろうか。
津田はいつも近くにいる筈の草加の事をあまり知らないのだと感じた。
そしてそんな彼の表情をひた隠し、覆っている一枚の仮面を剥いでみたいと思った。
「何のことはない、単純に私が彼を笑わせてみればよいのだ」
津田は布団の中であれこれと草加を笑わせる作戦を練りながら眠りに落ちた。
想像を巡らせているだけでとても楽しい気持ちになってくる。
小さな笑いではなく、彼の大きな笑いを誘うには……。
翌日、津田は草加の顔を覗き込んで、まっすぐな瞳を輝かせてこう言った。
「草加少佐、私とにらめっこをしませんか」
津田のその真剣な表情と、突然のおかしな言葉に草加は小さく笑った。かと思うと吹き出して声を立てて笑った。
津田の眼前にはにらめっこをして顔を崩す事もないままに、腹をかかえるように笑い苦しむ草加の姿がある。
あっさりと叶ってしまった津田の小さな試みは結果的には成功したのだが、津田は心中どうも腑に落ちない感じがした。
「貴様は面白い奴だな」
草加にとって津田は側にいるだけで口元が緩んで笑みが零れるような、そんな存在なのである。
草加は津田が何をしても面白いと思うのだろう。
aoto.
06/10/20
It is not a failure.
for Edamame-san!

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