
触れるのはほんの一瞬、そのつもりであった。
口元のはしたなく私を誘う赤い色。それを形作る緩やかな曲線。
媚びるような一点から視線を逸らせなくなり、心の裡に沸き起こる衝動をついに押さえきれなくなった私は
強引に津田の体を引き寄せ、眼前の赤い色に触れた。
しっとりとした湿度と、名残惜しく肌につきまとうしなやかな弾力。
甘くまろやかで優しい唇の感触に私は酔いしれ眼前の赤い色に何度も触れた。
その度に身を捩り微かに甘い吐息を漏らす。
津田の唇は乾いて荒れていたので、輪郭を舐め、唾液で濡らしてやると唇はひときわ赤く、
艶めかしく、存在を主張した。
私は薄く開く唇の隙間に舌先を無理に割り込ませ、柔らかい舌をそっと絡め取るとその先にある密やかな場所を刺激した。
歯の裏をなぞり、柔らかい舌を絡め、時に軽く噛み、唇の両端から零れる透明な滴をすくって飲み干す。
喉を通り抜け潤す滴の感じと艶やかな甘い声を耳の奥で震わせ楽しんだ。
眉を顰めて恍惚に歪む表情、荒げる呼吸の生まれる所へ大きく息を吹きかける。
唇を頬へ這わせながら指の先で耳元をさすって撫でる。後に頬を両の手の平で包み込むと2つの香りが混じり合う。
触れあう肌からいやらしく香り立つ汗の匂いが鼻孔を掠め、私は酷く興奮した。
一つの陶酔、離れがたい個との接触、ふわりととろける砂糖菓子の如く。
穏やかで甘美な至福の瞬間であった。
突然の出来事と信じがたい私の行動に津田は驚きの表情を見せたが、
津田は私の一連の口づけを一つも拒むことなく全て受け入れた…。
あからさまに軽蔑や侮蔑、または恐怖や嫌悪の表情を浮かべ、この身を強く打ちのめすと予測していた私は
少々拍子が抜け、腕の中で大人しく身を小さくする姿に驚いた。
俯き、閉じられた瞳がゆっくり静かに開く。すると薄く紅色に染まる顔をあげ、黒く聡明な瞳が真っ直ぐに私を見た。
津田の潤みのある瞳が揺れる。それは軽蔑や嫌悪の眼差しでは無かったので、ひとまず私は胸をなで下ろし安堵する。
ただ、その時津田の見せた薄く笑う口元の含む意味の解釈を自分の良いように解してよいのかと悩んだ。
凝っと黒い凛とした瞳を見詰めると、息を呑むような深き黒があまりにも美しかったので吸い込まれる思いがした。
黒は絶対的に他を染め上げる力を持つ、汚れを一切知らぬ色だから純粋で無垢な心を持つ貴様に相応しい。
だが、その真っ直ぐな瞳が私の心を惑わし、狂わせる。
感情を制止する神経をいとも簡単にぷつりと裁ち切って、高揚する情のままに私を突き動かす恐ろしくも愛おしい存在なのだ。
心音が律動を持って早鐘の如く鳴り響く。体の内側に巡る熱が奔流となって流れ出す。
裂けてしまう程に激しく脈打つ鼓動の中、至近に近い津田の息がかかる。
黒い網膜の中に取り乱した私の滑稽な姿が映り込むのが見えると、津田は次第に私との距離を詰め、薄い笑みを浮かべたまま自ら私の唇に触れた。
肌の内側がざわめく感覚は或る種のよろめき―――。
幻ではないと確認するかのように私達は幾度も深い口づけ繰り返す。
勢いを持って体中を駆け巡る熱の激しさに目眩がした。
aoto.
05/08/18
You enchant me.

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