
※太黙の草津アレンジ的な妄想パラレル。
「俺は、貴方をずっと前から知っています」
そう言い放った弦一郎の瞳は風に煽られて揺らぐ炎のようだった。
消え入りそうになってはまた息を吹き返す。
吸い込まれるような無垢な瞳。暗闇の中に灯る炎。その熱が周囲を静かに包み込む感覚。
葛城には覚えがあった。
知っている。私はこの男を知っている。
しかし一体何処で?何故私はこの男を知っている!?
記憶の底に微かに眠る朧気なその男の姿を鮮明に思い起こそう葛城は思案した。
得体の知れない苦しさが胸を締め付ける。後悔か、懺悔か。掴み所のない感情に靄がかかる。
息が詰まる思いがした。血の気が引く音がした。
窓のガラスが風に震えて音を出す。
空気が揺らいで、雪がどこからとも無く吹き込んだ。
肌に当たって溶けた雪が葛城の肌を静かに濡らした。
葛城は驚き、周囲を見渡した。
吹雪の中だった。視界は判然としない。先も後もわからない。
ただ真白な世界だけが遠くまで広がっていた。一体何時の間に。
知らず知らずに進む足は雪に沈み、歩を進める毎にその重みが増していく。
顔に激しくぶつかる雪はまるで石のように固く冷たい。だが痛みは感じない。
呼吸は乱れていた。一筋の汗が背中を伝った。
この先に、"私"を待っている誰かがいる。
私はそこへ辿りつかなければならない。
待ち人が誰なのかは分からない。だが、私を待っている確信があった。
葛城は迷うことなく、導かれるように歩き続けた。
記憶の奥底に眠る男の姿…。
揺らめく炎、その一点にとどまる熱が私を呼ぶ。
"私"ではない誰かを呼ぶ声がする。
男は掠れた小さな声で"私"の名を呼んだ。
「……草加、少佐…」
aoto.
08/05/05/

|