蕎麦が美味い店を見つけたから今日の昼、一緒に食べに行かないかと草加さんに誘われた。
国鉄に乗って30分。
駅を降りて10分程歩くとその店はあるらしい…のだが、
私達は駅を降りてから30分以上歩き続けている。
私は横目で草加さんを見た。
眉を顰めて周囲の様子を伺っている。
「確かこの辺りの筈なんだが…」
困り顔で明らかに道に迷った様子だった。

正午には店へと着く予定だった。
どっさり大盛りの定食だと言うので、敢えて朝食は余り食べてこなかった。
時計に目を遣ると1時を過ぎていた。腹の虫が鳴いた。
同じ道を3度通ったが、口にすると草加さんの気を悪くさせる気がしたので私は黙っていた。
次第に私達はあまり会話を交わさなくなった。
無言のまま見知らぬ土地を、ただ草加さんの後をついて歩いた。

まるで迷路のような入り組んだ小径だった。
民家が建ち並び、飲食を行うような店がありそうな気配は此処にはない。
店へ到着する前に駅へと戻る道筋を私は気にしていた。
あの金物屋の先には銭湯がある。
煙突を目印にすれば帰りに迷うことは無いだろう。
そんな事を考えながら歩いていると、どこからとも無く金木犀の甘い香りが漂よってきた。
塀の向こうに花は見えない。
代わりに柿が沢山なっているのが見えた。中で子供の騒がしい声がする。
葉が激しく揺れて柿が一つ二つと落ちた。
楽しそうな笑い声が聞こえる。けたましく笑う中年の女性らしき声もする。
どうやら渋柿だったらしい。

「津田」
突然名前を呼ばれたので私は返事をせず思わず立ち止まった。
「は、い?」
草加さんはいかにも申し訳ないと言ったふうな表情をしていた。
「あの角の店で食べるか」
「しかし折角ここまで歩いてきたのですから」
「いや、私が悪いんだ。すまなかった」
なんだか私がいけない事をしたかのような気持ちになった。
だがそろそろ空腹にも耐え難く、先を歩く元気が無くなってきた所だった。
仕方がないので次の機会にまた食べに行きましょうと言い、私達は角にある定食屋に向かった。
「あ」
私達は同時に声を出し、顔を見合わせた。
その店は私達が探していた蕎麦屋だった。


aoto.
for deita-san!
08/10/26
It is a quarter one now..
津田は草加の後を何処までもついて歩きます。