
※沈艦。海山なのか…な?
「血が、出てるぞ」
海江田に指摘され、山中は自らの左手を見た。
確かに小さな血の玉が出来ている。
何かに引っかけてしまったのだろうか。
薬指の第二関節の辺りの皮が大きく捲れている。
見た目には痛い傷に思えるが、感覚的な痛みは山中には無かった。
海江田はポケットからティッシュを取り出して山中へと差し出した。
「ありがとうございます」
山中はティッシュを受け取り、その一枚で指先を抑えた。
血の赤さが白さに滲んだ。
「そうだ」
海江田は突然何かを閃いたかのように手を叩き、
嬉々とした表情で鞄の中から小さな箱を取りだした。
「これは何だ、山中」
「ハ…?絆創膏、でしょうか?」
「好きな形に切って使う事の出来るスグレモノだ」
「ハァ」
「さっき目薬をを買いに行ったんだが…安かったからな、ついでに買ってきた」
「ハァ」
海江田はその箱をミシン目から開封し、
内包されている透明の袋から大判の絆創膏を一枚取り出した。
用意周到な事にペンケースからハサミを取り出しておもむろに切り出したかと思えば、
四角いシートだった絆創膏はハート型へと変化した。
左右が非対称で少々いびつな形が手作り感をアピールしている。
「さて…」
海江田は山中の手を強引に引き寄せ、絆創膏のシール面を剥がし、指先に巻いた。
手先に触れる海江田の体温と、細かな動きが指に当たり、
そのむず痒さが山中を一瞬どきりとさせる。
至近にいる海江田を山中はただぼんやりと見ていた。
(以前よりも少し白髪が増えている気がする――。)
この人と出会ってから一体何年の月日が経つのだろう。
山中は海江田を観察するように見た。ほんの短い間ではあるが海江田の姿を隈無く見つめた。
何年もの間毎日顔を合わせている筈なのに、こんなに至近で眺めた事は今日が初めての事だった。
「ほら、ピッタリだ」
満足気な笑みを浮かべる海江田から目線を外し、自らの手元に視線を変えた山中は
左手の薬指に貼り付けられたいびつなハート型の絆創膏に戸惑いの表情を見せた。
大の大人の男にこれはないだろう。
好意である筈の行為にとやかく一言を加えるのは失礼に当たるのだろうか。
押し黙って指先を見ている山中に海江田は箱の説明を淡々を読み上げた。
「肌色で目立たない皮膚にも優しい処方。水にも強い、だそうだ」
確かに目立ちはしない、かもしれない。
しかし誰かに知られたら変な顔をされるのではないか?
それを思うだけで山中は気恥ずかしくなったのか頬を少し赤らめた。
しきりに指先を気にしている山中に海江田は言う。
「大丈夫、誰も気付かんよ。知るのは私と君だけだ」
白い歯を覗かせて見せた笑顔は出会った頃と変わらぬ子供じみたものだった。
aoto.
"This is a secret between you and me"
2008/08/17

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